【説明】

 古典的なオルガン管(笛・パイプ)使用した音響的な発音部分と、電子制御を用いたMIDIデータの演奏情報処理を合体させた小型パイプオルガンです。パイプオルガンといえば、伝統の教会堂や大ホールに設置されていることが多いですが、手近でバロック時代の小品のオルガン曲を楽しむことを想定して作ってみました。

 オルガン曲は鳴らして見たいけれど演奏はできないという人も、実は私もそうなんですが、MIDIのシーケンサー(数万円程度)やパソコンに演奏させることができます。パソコンの場合は、DTM(デスクトップMUSIC)のソフト(1.5万円〜数万円)とMIDIアダプタ(5〜6千円程度)とケーブルが必要(再生だけならフリーソフトも多い)です。MIDIの演奏データは、楽譜を見ながら制作することもできますし、ネット上には、個人で楽しむことを条件に、多くのオルガン曲が公開されています。

 パイプオルガンには、鍵盤のほかに、ストップとよばれるノブ(取手のようなつまみ)が並んでいます。これは音色を選択するための一種の機械式のスイッチです。
オルガンのあの荘重な音は、笛1本からでは作ることができません。1本の笛を吹いてみると、ボーとかプーとかピーとかいう感じで、本当に笛音そのものです。ところが、この笛をある規則で複数同時に鳴らすと、不思議にも、あのパイプオルガン独特の荘重な響きになるのです。ストップはオルガンの中にある何グループかの笛を、ストップを出したり引っ込めたりして、鳴らすべき笛を選択するために使用します。ここまでの説明が通常のパイプオルガンの音色を作る仕組みです。

 本オルガンは、ミニサイズのオルガンで、何グループもの笛を持っていません。たった1グループの61本(または73本)です。このままでは、素朴な単音だけしか鳴らせません。話は変わりますが、ピアノでメロディーをオクターブ離して2音同時に鳴らして演奏することがよくあります。音が力強く、輝いてきます。同じことをオルガンのパイプでもやることにしました。違うグループの笛を同時に鳴らすのではなく、同じグループのオクターブ上の笛を同時に鳴らします。すると通常のオルガンで2個のストップを引いた(鳴らす状態にした)ときと同様、音に厚みと輝きがアップします。人がオクターブを同時に弾くかわりに、マイコンが指示されたストップの組み合わせを判断し、自動的にオクターブ間隔の2本の笛を発音するようにしています。オルガンに音色を指定するのは、MIDIのケーブルを通して行うことができるようにしました。

 パイプオルガンには、数段の鍵盤を持っているものが多いです。また足の鍵盤(ペダル鍵盤)もあります。本オルガンは、複数のチャンネルを使って、たとえばコラール旋律を8+2・2/3で鳴らし、対旋律を8’、ペダルを8+4で鳴らすことで、2段鍵盤ペダル付きの楽器で演奏しているかのような効果を出すことができます。このようにしてチャンネル1〜16に異なるレジストレーションをすることができ、独立に鳴らすことができます。

 整音について説明します。パイプ(笛)は部分品の半田付けによって、外見的には完成しますが、作っただけのパイプは必ずしも音が出ません。または、発音が不安定だったり、目的の音色と違ったり、要するにそのままではオルガンには使用できません。形だけのパイプを、目的としている音色で鳴るパイプに仕上げていく作業が整音です。オルガン作りの中では、始めて音楽的な感性を必要とする仕事になります。笛の歌口をよく見ると、狭い隙間から空気が噴出し、斜めに平たくつぶされた金属板のエッジにに、噴出した空気が当たるようになっています。並んでいるオルガンのパイプの形は、口を大きく開けて歌う合唱団のように見えませんか?パイプの歌口を人の口元に例えて、下側の風の吹き出す側を下唇、上の空気の当たる側を上唇とよびます。この部分の微妙な寸法や、金属面の荒さを変えることで、音色を変えることができます。噴出した空気が上唇のエッジの狙った部分に当たるように、噴出す空気の方向を調整もします。これによって音が出なかったパイプが鳴り出すようになります。
 合唱でも縦に大きく口を開いたときと、イーと横に開いたときでは、声の音色が変わると思います。パイプでもそうです。歌口の開き方が小さいと倍音の多い尖った音がします。極端な場合は「ギリギリ、ジージー」という感じです。一方歌口が高い(開いている)場合は、倍音の少ない「ホー」という感じの音になります。作ったばかりのパイプは低めの(口を小さく開いた)形にしておきます。それは上唇を少しずつ削りながら整音するためです。低い歌口のパイプの上唇のエッジを少しずつ削り上げていくと、はじめジージーと倍音だらけの音が、少しずつ倍音が(特に高次の倍音)が減って、聴きやすい音になってきます。中音域では、「プー」とい感じです。逆に耳を澄ますと、今まで聴こえていなかった「サー」というノイズが増えていくのがわかります。さらに切り上げていくと、ますます倍音が少なくなり(音が柔らかくなり)、「サー」音は増えます。これを繰返し、目的とする音色まで切り上げればよいわけです。ところがこの方法だけでは、目的の音色にするまでに「サー」音(雑音)が大きくなりすぎたり、声が裏返るように不安定に倍音が出たり、音の立ち上がり具合がきつ過ぎたりなど対応できない現象が発生します。そこで、ニッキングとよばれる加工を、空気の噴出すスリット部分に施します。噴出し口を形成する仕切り板に、ギザギザの切込みを数箇所わざと入れて、噴出し口を荒らしてしまうのです。噴出し口部分は、パイプを製作する時は、傷めないように最も気をつかって加工する部分です。にもかかわらず、せっかくの精密加工を台無しにするようなことをするのでしょうか。ニッキングをすると、まずパイプの発音が非常に安定になります。不用意にパイプの声が裏返ったりすることがなくなります。つぎに高次のジージーした倍音を大幅に減少できます。音色を作る低次の倍音はそれほど減りません。このため歌口を切り上げしすぎないで、いやなジージー倍音を退治できます。それから、音に渋みが出てきて、他の笛と調和しやすくなります。一方問題もあります。ニッキングをすると、音の輝きと個性が減ってきます。大オルガンのストップを単独で鳴らすと、どれもくすんだような没個性の音がする場合があります。過度なニッキングは、パイプの発音が安定な優等生になる一方、どんぐりの背比べになる危険性もあります。こういう理由で、ニッキングを最小限にして整音しています。でも、ついついやり過ぎてしまいます。
 歌口の切り上げをさらに行っていくと、「プー」音が、「ポー]音になってきます。フルート(オルガンで言う)の音色です。倍音はかなり減っています。サー音は目立ってきます。残響の多いところでは気になりませんが、一般の家ではサーサー言うのが耳障りになりがちです。いかに柔らかい豊かな音を出しつつ、サー音を抑制するか。笛の空気入口を少しふさいで、音が荒れないように静かに発音させます。

オルガンの内部構造

【歌口部分断面】

【金属パイプの形状】

【演奏の限界】

擬似的に複数の笛を混合して音色を合成できますが、1列の笛列のオルガンですので、音の厚みを必要とする大曲は演奏効果が出しにくいと思われます。たとえばバッハのトリオソナタや中部ドイツのパッヒェルベルの曲など、小型・中型のオルガンを想定した曲が向いているようです。また楽器の性格上、演奏会で使用するなどの用途にはレベル的に無理です。個人で楽しんだり、イベントで演奏したりするものとお考えください。

【温度の影響】

オルガン笛は空気を用いて音を発振しています。空気の温度の変化や、温度の分布があると発振の周波数(音程)が変化してしまいます。冷暖房や窓の開閉などで空気の温度が変化すると、全笛が一様に音程変化しないため、相対的な音程がずれ、音の濁りが発生します。特に複数の笛を混合して音色を作るパイプオルガンでは、高音の笛どうしの濁りはどうしても我慢できないレベルとなります。一定時間演奏を継続すると、各笛の温度が均一になってくるに従い、うなり(濁り)は軽減されてきますが、笛歌口の流体力学的な挙動が温度に対して線形的に変化しないため、調律した時の温度と異なる温度では、全笛が均一な温度になっても、調律時の正確な相対的音程とはずれてしまいます。音のうなり(濁り)は、うなる2本の笛の周波数の差となるため、高音になればなるほど目立ちやすくなります。このような調律管理の難しさは、アコースティック楽器ならではの煩わしさでもあり、逆に面白さでもあります。

【調律】

音の継続するパイプオルガンでは12平均率で調律すると、長3度の18セントの純正からのずれによる濁りがかなり気になります。またストップを混合すると顕著です。このため古典調律(ベルクマイスター・キルンベルガーなど)を用いて調律します。高音の笛では笛の長さの0.1mm程度の変化でも濁りが発生します。

【低い歌口】

【高い歌口】