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【音を見るには、周波数分析で】


楽器の音色は、各人の耳という極めて個人的な計測器をもって、計測され判断されてしまいます。
さらに、好き嫌いや伝統文化など、数値化できない主観的な指標で良し悪しが評価されます。
何とか客観的な指標で、音の性格や良し悪しをある程度調べる方法はないでしょうか。
私はその有力な一手段が、音の周波数分析を行うことだと思います。

音を調べるのだったら、マイクで拾った音の波形をオシロスコープで見ればよいのではと考える方も多いでしょう。
私もかつては波形を調べて音の性格を見極めようと努力しました。柔らかな音は正弦波に近い形状で、鋭い例えばバイオリンやプレノの音は細かくぎざぎざした複雑な波形、というような定性的な評価はできましたが、それ以上の利用価値のある分析は不可能でした。

10数年前に、配管の振動解析に使用していた小野測器のFFTをちょっと借りて、2〜3種類の笛を鳴らして騒音計のA出力を見てみるました。すると、時間軸上では漠然としていた笛の音色の波形の差が、周波数軸上では各倍音成分の強さをピークの高さとして明瞭に笛の個性を区別して見せてくれました。メンズールの太いフルート管はほぼ基本波のみ、金属管は高次倍音まで大きいレベルで継続するスペクトル、閉管は奇数倍音のみが出ています。またサーという雑音の多い笛は、ピーク状のスペクトルに加えて台地状の連続スペクトルが加算された形状となっています。

そんなわけで、私はオルガン製作を始めるようになって比較的早いうちに周波数分析ができる装置を自ら手に入れました。その装置としてFFTを採用しました。低周波(音声帯域)なのでスペアナはあまり向かないし、デンマーク製の帯域フィルタをつなげた様な分析器では周波数分解能が低すぎてほとんど何の知見も見出せなかったという過去の経験から、です。まあ、個人レベルで購入できるのは数万円までなので、テクトロのストレージオシロにFFTオプションを増設して、とりあえずの分析ができる環境を作りました。

  
 ↑周波数分析に使用しているFFTの画面


周波数軸上での分析が時間軸に比べて優れていることは他にもあります。その1つが、各倍音間の位相差が分析画面に影響しないことです。抽象的なので具体的に言いますと、例えば基本波と第二倍音の間で考えてみると、sinωt、sin2(ωt+φ)のように表記できますが、日常の音楽環境では、この位相差φがゼロもしくは一定値ではないのです。マイクの空間的な位置や、歌口の空気を吹き込む強さを変えることで、変化してしまいます。この位相差が変化すると、耳で聴く音はぜんぜん変化しないのにもかかわらず、波形の形状は全く異なってしまいます。

この不可解な現象の理由は、人の耳が音の波形(波のかたち)を聴き取るのではなく、耳自体が周波数分析をおこなった情報を脳が再構成して音色を認識するというためで、この処理の過程で位相差の情報が除外されてしまうためです。しかし、これは自然界で人が生きていくためには、とても都合のよい方法です。音の波の波長は、人の生活する空間や物体の大きさのスケールと、同じ程度のサイズです。そのため反射や回折などで音源から出た音波の波形は、聴き手の耳に届いた時には、行路差で位相がずれ全く波形は変わってしまいます。波形で脳が判断していたら、非常に難しい処理を行わなければ、同一音源を異なる音源と誤解してしまうでしょう。例えば、ふたりの奏者でハーモニーを作るとき、それぞれの立ち位置が移動するたびに、音色が変わって聴こえたら、演奏家はいつも巻尺を持ち歩かなくてはならないでしょう(笑)。

人の耳と同じような周波数分析で音を見れば、耳で聴く楽器の音の評価と相性が良いはずですね。

まだまだ、知ったかぶりをしま〜す!ではでは、次回をお楽しみに。。。。。。。